4つの脳活動計測法
こんにちは,バーチャルサイエンティストの卵のRueです.
これまで僕は,例えば,脳×インターネットで脳とインターネットを直接接続しようとする技術だとか,脳に電極を埋め込んで頭でイメージしただけでゲームを楽しむことができるようになるだとか,そんな最先端のテクノロジーについてで紹介してきました.
これらの最先端脳科学テクノロジーを実現する上で欠かせないのが,脳活動を計測する装置.
これまで,脳活動計測の装置は軽くは説明してきていましたが,最新のテクノロジーを支えてる脳活動計測法が一体どんなものなのかあまり解説してきませんでしたね.
ということで今日は,今脳科学の現場でよく使われている脳活動計測装置について4つ紹介したいと思います.
今どんどん実用化が進んでいる脳活動計測装置を中心に話していきますので,今日の動画を見ると,近い将来大きく人気となること間違いなしの脳科学テクノロジーがどういう仕組みで成り立っているのかを理解できるようになると思います.
是非最後までこの動画を見て,未来の脳科学デバイスブームに備えましょう♪
- 現役の博士課程の学生で普段は脳科学の研究に従事
- 将来の夢はゲームの中に入り込む技術,フルダイブ技術の実現
- フルダイブの実現のためにも,皆さんに脳科学に興味を持ってもらいたい!
- ブログやYouTubeで最新の脳科学や役に立つ心理学情報を発信
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脳波(EEG)
さてそれじゃ早速,科学の現場でよく使われている,脳活動計測装置について解説していきましょう.
まず一個目は,皆さんもご存じ,脳波!
英語では,よくEEGと呼ばれています.
脳波は人の脳の神経細胞が活動したときに発生する電気信号を,頭の頭皮上で計測するって装置です.
こんな感じで,電極のついた水泳帽みたいなものをかぶって,電極と頭皮の間に電気抵抗を落とすためのジェルを注入することで脳からの電気信号をキャッチしているんです.
脳波は脳から発生した電気信号をそのまま電気信号としてキャッチするので,脳の反応をダイレクトに観察することができる点で,とても即応性が高く被験者の反応をよく捉えることができます.
また,細かい時間単位で計測することも可能で,高性能な脳波計だと,1秒間に1000点以上の計測も可能です.
一方で空間分解能,空間的に細かく見るのは苦手で,電極数は32ch ~ 256chくらい,空間分解能,電極間の細かさは10ミリ程度だといわれており,脳内の特定の領域の反応を詳しく解析するっていうのは苦手かもしれません.
データとしてはこんな感じで,一つの電極に対応した1本の波線上でデータが記録されていきます.
電極数が増えるほど,取得できる波線も増えて,細かくデータを解析できるわけですね.
僕もよくこの脳波計測は実施しているのですが,
脳波の実験て,頭皮と電極の間の抵抗を低くするために,伝導性の高いジェルを入れたり,綿棒でグリグリしたりしているのですが,この電気抵抗を落とす作業って結構大変なんです.
特に,女性で髪の毛がたくさんある人は,電極と頭皮の間に髪の毛が挟まっちゃって,なかなか電気抵抗が落ちないことがあるんです.
一方で,例えば,高齢の男性被験者なんかは,髪の毛が心もとなくなってきた人もいて,その人に脳波キャップをかぶせると一瞬で電気抵抗が落ちちゃったりするので,脳波の実験者に喜ばれます.
ちょっと髪の毛の量が気になってきたなーってひとは是非,脳波計測の実験にお越しください.
脳磁図(MEG)
さて,それでは2つ目の脳活動計測装置は脳磁図.
英語ではMEGとして知られている計測装置です.
MEGは,分かりやすく言うと,脳波計測の大規模バージョンで,脳波と同じように,脳の神経細胞で発生した電流を観察して脳活動を計測しています.
ただし,脳波と違って,脳の表面から電流をキャッチするのではなく,神経細胞から発生した電流によって変化した磁場の影響から,脳活動をモニタリングしているんです.
中学の理科で,電流が流れると,磁場も発生するという右ねじの法則,皆さんならいましたよね.
あの原理を用いて,脳活動をキャッチしているんです.
性能的には,脳波と比べて時間分解能は同じくらい,空間分解能はやや高いといったところ見たいです.
医療用としては,てんかんの治療なんかでよく使われているみたいです.
一方で,脳磁図は磁場を細かく観察しているので,被験者の動きには弱く,ちょっとでも動いてしまうと,すぐノイズとして観察されちゃうので,
機能的磁気共鳴画像法(fMRI)
さて,3つ目は,機能的磁気共鳴画像法,英語では,fMRIっていわれている計測について.
よく,MRIとfMRIの違いが分からないって人がいるのですが,一言でいうと,MRI装置で使う計測方法の1つがfMRIです.
MRIって聞くとこんな感じ(⇩)の細かい画像を一枚取ることだって思い浮かべる人がいるかもしれませんが,fMRIって計測方法は,それよりも画像が荒い代わりに,1秒間に1枚位の間隔で,100枚以上連続で画像を取り続けます.
一枚の画像を詳細に取って,詳細な脳について調べるのではなく,脳の様子が時間的にどのように変化していっているのかをみるのがfMRIってわけですね.
fMRIの計測は,神経細胞の電流を観測しているのではなく,神経細胞が活性化することによって変化した血流量によって変化する,磁場の変化を計測しているんです.
皆さん,血液の酸素を運ぶヘモグロビンって物質はきいたことありますか.
ヘモグロビンは実は面白い性質を持っていて,酸素と結合している時は反磁性体,磁場に反応しないのに対して,
酸素を切り離した時には,常磁性体,磁場に反応し,元々の磁場を歪める性質があるんです.
神経細胞の活動が活発になると,その細胞の周りの血管が広くなって,血流量が多くなるので,反磁性体の酸素化ヘモグロビンが多く流入し,
神経細胞の活動が収まると,常磁性体の脱酸素化ヘモグロビンの割合が大きくなります.
この時,被験者の脳に一定の方向の磁場を常にかけ続けていると,このヘモグロビンの効果によって,その磁場が歪んだり,歪まなかったりするんです.
この性質を利用して,脳活動を計測するっていうのがfMRIです.
データはこんな感じの脳の断面図が高さ1,高さ2っていう感じで細かく刻まれた3次元データ × 時間として記録されていきます.
つまり,縦×横のデータが高さ別に数十枚あるってわけですね,脳をスライスしたように見えることから,この画像のよくスライス画像っていったりもします.
データの性能としては,脳波と比べて,時間分解能は,1秒に約1枚と遅いですが,空間分解能はとても高く,数ミリ単位で記録することができ,さらに,脳波が苦手としている,脳の内部,奥の方のデータを収集することも出来ます.
例えば,見ているものの画像化する研究とか,人の顔の好みの操作する研究みたいに,びっくりするような研究成果はこのfMRIを使った研究が多いイメージですね.
見ているものの画像化の解説動画
その分実験装置が大規模なので,気軽に実験できないという問題や,MRIの中に金属を持ち込めないという問題があって,実験にはかなり気を使います.
MRIの中はとても強力な磁場をかけているので,時々,MRI装置に酸素ボンベや車いすなどがくっつく事故が起こることもあります.
車いすという結構重たいものが難なくひき良さられちゃうくらいには,強い磁場がかかっているんですよね.
ちなみにこの状態になると,車いすの撤去に数日,数百万円規模の費用が必要だったりします.
車いすのほかにも,鉄の芯入りのかつらがふっとんだりだとか,僕の知り合いは,駐車場の磁気カードがバグって,帰れなくなっちゃたりだとかしたそうなので,気を付けないといけませんね.
近赤外線分光法(NIRS)
さて,次は4つめ,近赤外線分光法 英語でNIRSとやばれているものです.
これは,fMRIの簡易版に近いと考えてもらえればいいかもしれません.
装置自体は脳波計と同じようなヘッドギアタイプなのですが,見ているものはfMRIと同じ血流量,ヘモグロビンなんです.
ヘモグロビンにはまだまだ面白い特徴があって,酸素と結合している酸素化ヘモグロビンと,酸素を切り離している脱酸素化ヘモグロビンで光の吸収の仕方が異なるんです.
そのため,頭に光を照射して,頭皮上に設置したセンサーにその光がどれだけ戻ってきたかを観察することによって,酸素化ヘモグロビン・脱酸素化ヘモグロビンの量を割り出し,それをもとに脳活動計測をしているんです.
性能としては時間分解能,空間分解能,共にそこまで優れているわけではありませんが,比較的動きに強いという特徴があります.
また,血流量を計測しているfMRIとNIRSに共通して言えることなのですが,被験者の反応を感知する即応性はあまり高くありません.
というのも,血流量は神経細胞が活動し始めて,3~5秒後に上昇するという効果が知られているので,被験者の反応からどうしても3秒程度のタイムラグが発生してしまうんです.
例えば,脳活動でコンピューターを操作するBrain Machin Interfaceを考えてみた時に,コンピュータを操作するのに,いちいち3秒のラグがあるって,とっても使いにくいですよね.
そのため,Brain Machine Interfaceには血流を見るfMRIやNIRSではなく,電流を直接観測するEEGやMEGといった装置を使うことが多いです.
4つの計測法 まとめ
ってことで,ここまでで4つの脳活動計測方法についてお話してきました.
それじゃそれぞれの性質を,まとめてみます.
まず,観察対象については,EEGとMEGについては同じ神経細胞から出てきた電流だったり,その電流によって変化した磁場について計測している一方,fMRI,NIRSに関しては,神経細胞の活動によって変化する血流量を観察しているということでした.
実験機材の規模としては,EEGとNIRSは比較的お手軽に購入・実験出来るものの,MEGやfMRIといった機材は巨大・高価で大規模な実験になりがちだということでした.
時間分解能はEEGやMEGは1ミリ秒以下で細かく計測できるのに対し,fMRIやNIRSは1秒刻み,0.1秒刻み程度で細かく計測出来ないうえ,被験者の反応から3~5秒程度のタイムラグがあるということでした.
空間分解能に関してはfMRIが一強で,数ミリ単位で細かく計測できるうえ,3次元方向にもデータを記録できるので,脳の奥深くの活動を記録できるというのがとてもおおきな強みです.
全体的な好評として,EEGは手軽で使いやすく,脳活動でコンピュータを操作する技術,Brain Machine Interfaceにも使いやすいと思います.
MEGは高価で大規模であるため,EEGと比べると,BMI技術を使うのにはむいていないかもしれないです.
fMRIは性能としては,ダントツなので,様々な魅力的な研究成果が生まれていますが,タイムラグの問題があり,操作を期待するBMI技術に使用するのは難しいかもしれません.
NIRSは性能はあまり高くないんだけど,動きに強いという明確な強みがあるので,ピンポイントで活躍するかもしれません.
って感じです.
色んな脳活動計測装置を紹介しましたが,それぞれ特徴が大きく違って面白いですね♪
まとめ
ってことで,今日は,今をトキメク脳科学の代表的な脳活動計測方法4選について紹介してみました.
内容はかなり難しかったかもしれないけど,できるだけ分かりやすく解説してみたつもりなので,もし分からなかったところがあれば気軽にコメントで質問してね.
それでは今日はこの辺で,また次回の記事でお会いしましょう.
ばいばーい.
[参考]
EEG画像 physio-tech
http://www.physio-tech.co.jp/products/brainproducts/braincap.html
脳磁図 脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%B3%E7%A3%81%E6%B3%95
MRI 北海道大学 画像診断教室
https://di.med.hokudai.ac.jp/clinical-services/mri/
NIRS g-tech
https://www.gtec.at/product/fnirs-sensor/
脳波の手習い
https://naraamt.or.jp/Academic/kensyuukai/2005/kirei/nouha_normal/nouha_normal.html